素晴らムダ

アップルとデジタル音楽サービス企業が24ビットの音楽ファイルの配信を開始するために協議中らしいけれど、これについてギズモードが「24ビットの高音質にしても利用者にはなんの得にもならない理由(http://www.gizmodo.jp/2011/02/24-bit.html)」という中々痛快な記事を出してくれました。オーディオに関してあまり詳しくない方には、???な部分が多いかもしれませんが、記事の要点は、この一点につきると思います→「一般消費者にとっては24ビットなんて無用の長物」ということ。記事には「24ビットの動きは大詐欺の様相を帯びつつある」とまで書いてあって、ここまで正直に書いて大丈夫?という感じもしますが、良くぞここまで言った!Gizmodo偉い!

記事の内容を簡単に言うと、レコーディングスタジオでは

  • 演奏を録音すると、CD化する前にまず余計な雑音を取り除いたり、音をキレイにする作業を行う。その作業では、音を細か〜く聴いて手直しなどをする必要があるので、音質が良い24ビットはとても有益。

ところが普通に音楽を聴く人にとっては、

  • そもそもスタジオでの作業のように細かく「音」を聴くわけでもないので、24ビットは必要ない
  • さらに、携帯楽曲プレーヤーの多くで24ビットオーディオが再生できない
  • その上、24ビットだと音楽ファイルのサイズが大きくなる

ということです。

あくまでも私の素人意見ですが、私たちが普段携帯プレーヤーで持ち運んでいるmp3なんかよりはるかに音質が良いCDでさえ16ビットです(付け加えると、24ビットのオーディオファイルを音楽CD化すると16ビットになってしまいます)。それに、防音設備で外音が防げるスタジオとは異なり、私たちは色んなノイズだらけの生活環境で音楽を聴いているわけで、オーディオマニアの人や、音質にとてもこだわっている人は別として、室外で携帯プレーヤーを通して音楽を楽しんでいたり、部屋のPC・CDコンポなんかで軽く音楽をかけている、なんていうフツーなリスナーにとって24ビットが本当に価値があるか疑問です。ちなみに、よりハイレベルな意見を知りたい方はこちらもどうぞご覧下さい。

まぁ、なんだかんだと付加価値をつけて、消費者からより多く金を取ろうという魂胆なのでしょう。24ビットファイルの発売が始まれば、対応プレーヤーもどんどん市場に出してくるのでしょう。でも所詮は「素晴らしいけどムダな物」だと思います。

もし携帯プレーヤーなどでヘッドフォンを通して音楽を聴いているけれど、音質に満足できないという方がいたら、まずヘッドフォンを良いものに換えてみてください。それだけで音質はかなり変わります(逆にそこに目をつけたのがDr. Dreなのかもしれませんね。それに加えて24ビットをプロモートするあたりは、かなり商魂たくましいですね)。それから、ここでは詳しい説明は割愛しますが、普段mp3ファイルを聴いているならば、より高いビットレートのファイルを使って下さい。320kbpsにもなるとwavファイル(CD音質)とは違いがほとんど分からないというプロの方もいます(意見は割れるところですが)。

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24ビットの高音質にしても利用者にはなんの得にもならない理由 - Gizmodo

Appleとデジタル小売各社が24ビットのオーディオを提供するらしいですね。売るのは簡単。「スタジオは24ビット使って楽曲ミックスしてるんだから消費者もこれで聴かないと」って言われたら、普通そうかなって思っちゃいますもんね? それが大間違いなんですよ。

24ビットのオーディオは確かにレコーディングスタジオでは必需品かもしれないけど、スタジオどまりになっているのにはそれなりの理由があるんです。

24ビットの音は「ノイズフロア」(サイレント・アンプリフィアを無茶苦茶高くかけても聞こえるノイズ)が本当に低く、16ビットだと若干高い。音をクリアな大音量で再生するスタジオだったらコレ問題かもしれないけど、エンドユーザーはもう完全にマスターし終えたノイズのない状態で買うのだから、ノイズフロアなんて関係ないんですね。

CDの音質は消費者向けのHD並みな音の定義として一応受け入れられているわけですが、あのCDですら16ビットですし。

24ビットの音は「ダイナミックレンジ」(一番小さな音と一番大きな音の差)もベターというんですけど、ダイナミックレンジなんて既にCDので十分ですよ。今は大音量を競うラウドネス戦争のせいで、楽曲はほんの数デジベルの範囲に収まってます。テレビのCMがあんなにうるさいのも理由は同じ(音が大きい方が売れると思ってる)。現代の音楽は鼓膜つんざくような音に最初からミックスされてちゃってるので、昔デジタル革命で起こると約束されたダイナミックな利点なんてどっか飛んじゃってるんですね。これは音楽業界内部のカルチャーの問題なので、3月25日は「ダイナミックレンジの日」ということで反対運動も行われるようですよ。

スタジオなら楽曲ミックスでデジタルエフェクトを加える微妙な処理があるので、高い24ビットのレゾリューションのファイルの利点を活かす場もあるんですが、家で聴く人はエフェクトなんて使いませんものね。

あと24ビットだとファイルサイズもでかくなるし、携帯楽曲プレーヤーの多くは24ビットのプレイバックをサポートしていないんですね。これも忘れちゃならないポイントです。

一般消費者にとっては24ビットなんて無用の長物なんです。この先もずっと。

なのにどうして24ビットなのか?

ここで出てくるキーマンがヒップホップのプロデューサー、ドクター・ドレーDr. Dre)です。彼は数年前からオーディオ愛好家向けに「Beats」というヘッドフォンを出しています。彼が所属するレコード会社インタースコープのジミー・アイオヴィーン(Jimmy Iovine)会長兼CEOも、HDファイル鑑賞用のハイレベルなヘッドフォンとして宣伝すれば売れるという手応えを感じたようで、共同でプッシュしてるんですね。

24ビットというコンセプトを大手レーベルと楽曲配信サービスに持ちかけたのは、このBeats Audioのチームなんです。Spotifyみたいな楽曲配信サービスはファイル容量が大きくなればストリーミングの時間とコストが嵩むので太刀打ち出来なくなる、これで今成長中の楽曲サブスクリプション市場から既存の販売収入を取り戻せるよ、とでも進言したんでしょう。

先日開かれたHPのwebOS搭載新製品発表の場でアイオヴィーン会長は「ユニバーサルと24ビットに変更する作業を進めているところだ」ということを明らかにしました。「Appleも協力的だ。彼らと他のデジタルサービス(ダウンロードサービス)と共同で24ビットへの移行を行っている。彼らの電子端末の一部にも変更を加えることになるので、まだ先は長いけどね」

ハイファイ産業にとってオーディオ愛好家は常にカモ...気を付けないと。iPod付属ヘッドフォンで聴くより良質な機器で聴く方が音がいいのは疑問の余地もないことだけど、今の音楽産業のマーケティングに任せていたら世の中オーディオ愛好家だらけになっちゃいますよ。

CDみたいな16ビットのロスレスオーディオをiTunesで提供するんなら、レコーディング関係者も歓迎・推奨したと思うんですが、24ビットの動きは大詐欺の様相を帯びつつあるように思いますね。業界は無形のものに価値を見出して売り込む達人かもしれないけど、それで値段とストレージが嵩むんでは損をするのはまた消費者でしょう。