カピカピ

カピバラカピバラカピバラが見た〜い!」とここ数ヶ月言い続けている者が我が家に約1名いたので、久しぶりに休日を取った今日、クルマで1時間ほどのところにある動物園に行き、件のカピバラを見てきた。

私はあまりアウトドアで元気に遊ぶタイプでもない上、カピバラにもとても関心がある訳でもなかったので、家人の「カピバラ見たい無限ループ」のスイッチが入った時には、正直どうしようかと思っていたのだが、あまりに気持ちの良い春の日だったので、思い切って出かける事にした。

動物園に入り10分ほど歩くと、家人お目当ての「どうぶつ・ふれ合いコーナー」があった。考えてみると今は春休みということもあり、そこは中々の数の親子連れで賑わっていた。

余分に数百円を払って「ふれ合いコーナー」に入ってみると、そこでまず目にしたのは、マルチーズやチワワのような小型犬や、ウサギ、ハムスターたちだった。

ワンちゃんたちは子供たちに特に人気のようで、その場にいた犬は一匹残らず子供に抱っこされていたり、一緒にあそんでもらっていた。無邪気に遊ぶ子供たちと小さな犬たち。愛らしい光景だ。

ただ、よく見てみると、犬たちは子供たちに抱っこされているというよりも振り回されており、愛らしい光景とは裏腹に、犬たちはみんな目が「どよーん」として、クタクタに疲れていた。人気の犬などはボロボロになっている感じがした。思わず心の中で「お仕事お疲れさまです」と呟いてしまった。

ピクニックテーブルの上には2羽のライオンラビットがいた。犬に比べると反応が無いせいか、そのウサギたちのそばには子供たちはいなかった。頭でも撫でてやろうかとそばに行くと、「俺は眠みーんだよ!ほっとけ、ボケ」という感じでにらみつけられた。2羽のうちの1羽は、グレーの毛のモジャモジャ具合がアル中・ホームレスのおっさんのように見えたせいもあり、にらみつけられても妙に納得感があった。

その横には、ただひたすらキャベツを食っているハムスター達がいた。

その向こうに、カピバラが二頭、柵の中に居た。ただ居た。こいつら永遠に活発に活動することはないんじゃないか、と思わせるような怠惰感を漂わせながら、ボテーっとしていた。

動かなかった。

当然、子供達はいない。

その柵の前で家人と二人、5,6分ぼーっと佇んだ。

柵に長い雑草の茎が立てかけられてあった。それを「カサっ」と動かすと、カピバラは一瞬ピクっと動いた。それから、またボテーっとした。

こちらも再びぼーっとしていると、係のお兄さんが「そこに積んである草をやると食べますよ」と親切に声をかけてくれたので、長さ1メートルちょっとほどのそれを取ってきて、手前にいたカピバラの口元に持っていってみた。

しかし相手にしてくれなかった。

仕方が無いので、カピバラの顔の前で草をシャカシャカ揺すると、とーっても面倒臭そうに、口をあけて草を食べ始めた。「シャク、シャク、シャク、シャク」と一定のリズムで、草を噛んでいるのが聞こえた。


途中で食べ飽きて、またボテーっとするのかと思っていたが、意外なことに全部食べたので、もう1本草を取ってきて、顔の前で揺すった。そうすると、また面倒臭そうに食べ始めた。「シャク、シャク」と一定のリズムで草を噛むのだが、今回は「シャク、シャク、シャク、シャク、ピタッ、シャク、シャク」と間が一瞬入ったりして、見ているこちらも面白くなってきた。

面白い気分が向こうにも伝わったのか、それとも食欲に火がついたのか、もう1本草を取ってくると、こんどはすぐに食べ始めた。「シャク、シャク、ピタッ、シャク、シャク」

そして1本、また1本。

このカピバラは食事のマナーが良かった。与えられた草は、残さずきちんと最後まで食べた。感心である。

次の1本は、カピバラのちょっと違ったリアクションが見たくなったので、家人がカピバラの顔から少し離れたところで草を揺すってみた。すると、怠惰なカピバラが何と立ち上がり、一歩踏み出して草を口にした。家人と二人で「おおー。」

その歩みを「カピバラの偉大なる一歩」と名付ける事にした。

しばらくすると、「もう十分食べたよ」という雰囲気を感じたので、草をやるのを止めて、またしばらく柵の前で、二人ぼーっとした。

そして、そこを離れた。

犬たちの所へ戻ると、いつの間にか子供達はいなくなっていた。そして犬たちが屍のように点々と床で伸び切っていた。

犬が二匹、ベンチの上でもヘタばっていたので、可哀想に疲れただろう、と家人と頭を撫でてあげると、うれしそうに目をウルウルさせていた。しばらく頭を撫でた後、その場を離れようとすると、「もっと撫でて」という仕草をするので、もうしばらく続けた。

出口のカウンターの内側では、犬が2匹カゴの中で休まされていた。係員が犬の疲れ具合をちゃんと観察しているのが分かり、安心した。

「ふれ合いコーナー」を出ながら、さっき頭を撫でていた犬に目をやると、今入ってきたばかりの幼女が、楽しそうにその犬を振り回し始めていた。